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もうららいふ

快適らいふを目指して、実践したことを書いています。引き寄せの法則が好き。ビジネス書もよく読みます。

岩井志麻子独特のホラー感 徐々に増していく不気味さにハマる

タイトルだけでは何の事だか分からないと言った方が多いと思うが、ぼっけぇきょうてぇとは岡山弁で「とても、怖い」という意味である。第六回ホラー小説大賞を受賞した本作により、岩井志麻子独特のホラー感を開拓する事となった。

徐々に増していく不気味さ

語り手である遊女が紡ぎだす言葉により、不気味さが徐々に増していくと共に、その艶めかしくも古風な口調が徐々に癖になっていくに違いない。また土着的な“神様”や“地獄”という不穏なワードが各所に散りばめられており、遊女の背後にある風景を陰湿に描写しているのでホラー感も増すというもの。間引き(現代でいう所の中絶)を題材に遊女の語りは淡々と続いていくが、ラストのぞっとするようなオチは正に日本ならではのホラーでありヒヤリとするに違いない。語り手である遊女のが美しくも儚い幽霊のようであり、生まれなかった姉の怨念すら背負って生きているのかと思うと女の強かさを感じる。映像化された作品では、なんと本人も出演しているのでこちらも気になる所だ。

陰鬱な文体にいつの間にかハマる

 また、他にも「密告箱」「あまぞわい」「依って牛の如し」の三作品が収録されており、民話のような怪談は、ドロドロとした陰鬱さを纏っている。特に「依って件の如し」は都市伝説ともなっている妖怪「件」をテーマにした作品なので、怪談好きには堪らないだろう。背景にある戦争が時代を浮き彫りにし、ひもじさと主人公であるシズの境遇をよく伝えてくる。現代ではおおよそ考えつかないような事が横行していたその時代で、まだ幼いシズが見たその家族は件の如しといったように不気味さを醸し出して進んでいる。意味深なラストから色々な考察が出来るのもこの作品の面白い所なので、何度も読み返したい話だ。

どれも女が関わっている

 全体を通して、岡山弁といってもとても古い時代の方言である。しかし、流麗な語り口調はすぐに馴染めるはずだ。そして、どれも女が関わっているという事もあり、女性は共感しやすいし、所々に出るキツい言葉も受け入れやすいのではないだろうか。

表紙は甲斐庄楠音の「横櫛」

表紙は大正時代の日本画家である、甲斐庄楠音の「横櫛」が使われており、女の深い業と怨念とが滲み出るような雰囲気を出している。子供の頃、触ると呪われそうでなんだか嫌だった図書館にある本。この本はそれに近い。

岩井志麻子他作品

岡山出身の岩井志麻子が岡山で起きたあの大事件を放っておける訳がなかったのだ。この事件は映画やドラマなど様々な分野で作品化されているのが、本作は岩井志麻子独特のホラータッチで描かれており、新しい津山事件の解釈が生まれた。

引き込まれる陰湿な空気と岡山弁

 村の中心にある森の不気味さと、土俗文化ならではの閉鎖的で陰湿な空気が岡山弁という事もあり、より一層と読者を物語へと引き込んでいく。

津山事件といえば、八つ墓村での凄惨な殺戮シーンが印象的だ。しかし、夜啼きの森のストーリーは様々な村の住人の目を通して欝欝と進められていく。これは妖怪や心霊現象などはなく、この村そのものと人間の恐ろしさを伝える作品と言えるだろう。かつて蔓延っていた夜這いという因習と、人間の底意地の悪さとが相まって随所に散らばる闇を助長させていく。事件の全貌を知っている読者は主人公の怒りが頂点に達する仮定をじっくりと観察する事が出来るであろう。

生々しさと閉塞感

どこか艶めかしさを感じる文章は美しさすら感じ、村の土の匂いや、そこに住まう人々の熱がしっかりと伝わってくので、そこが更に生々しさを感じさせてくれる。閉鎖的な空間で起こる人間同士のいざこざもさる事ながら、所々で聞こえてくる森からの啼き声は、物語のスパイスとして結末までの盛り上がり要素となっている。この村ならではの信仰である“お森様”が異質な村社会の象徴となり、ここが現代でもただの昔話でもないのだとはっきり分かるのである。

狂気的な美青年辰夫

そして不気味な啼き声に、いつ来るのか、何が居るのかと、怖いような楽しみなような不思議な感覚を抱きながらも読み進めてしまうのだから、ホラー小説として取り上げられるのも分かる。また物語の中心人物である辰夫の、美青年でありながらも弱々しく、けれども狂気的な一面には女性を引き付ける魅力を感じた。実際に津山事件の犯人も様々な女性と関係していた事実もあり、この辺りの描き方はやはり犯人像を彷彿とさせる。

全てはカウントダウン

 そんな主人公辰夫が鬼へと変化していく様は鬼気迫る物があり、物語自体を畳み掛けるかのように失踪感を持ち、鮮烈に記憶として残るだろう。それは紛れもなく数十人あまりしか暮らしていない閉鎖的な村が作り上げてしまった物であった。読み終わった後は、それまで辰夫と関わる村人からの視点で描かれていた事や、村の生業から風習に至るまで、全てはこの時までのカウントダウンだったかのように思える。

岩井志麻子の他の作品